超久しぶりのコイルシリーズ。そんなものが在ったなんて、私自身忘れかけていた・・・・(汗
復習も兼ねて、コラム的な内容など。
スイッチング電源回路を設計する上で、コイルの理解は極めて重要。特に、直流重畳特性は、扱うのがやっかいだ。
コイルは、電気エネルギーと磁力エネルギーを相互交換する。ざっくり言うと、インダクタンスは、貯められる電気エネルギーの大きさを表す。(正確ではないが、突っ込まないよう・・・)
ところで、DCDCコンバータなどでは、直流電流を流しつつスイッチングを行う。コイルでは、直流電流を流すと、ある電流値を超えると、インダクタンスが急激に減少する現象が現れる。つまり、貯められる電力エネルギーの量が急激に減少してしまうと。水に入れていった場合、バケツはあふれてもバケツの大きさは変わらない。ところが、コイルでは、このバケツの大きさがいきなり小さくなると言うこと。それまでにたまっていた中身は、行くところが無く、一斉に排出される。想像しただけでも、極めて危険な状態であることが分かろう。
設計を誤ると、最初は正常に動作しているように見えても、ある時間を経った瞬間、発火するようなことも考えられるのだ。これは、極めて危険だ。
実は、私も、以前失敗してしまった。
鉛蓄電池のデサルフェータ(バッテリパルサー)を試作していたときのこと。パソコンの壊れたマザーから引っぺがしたコイルのコアに適当な電線を巻いて、適当なコイルを作った。測定してみたら、30uH程度だった。バッテリパルサーは、10kHz程度でパルス電流を流す装置。パルス幅は数μsであり、対して電流は流れないため、この適当なコイルで大丈夫かという安直な考えから、回路を組んで古いバッテリで試していた。1時間程度様子を見たが、正常に動作しているようだ。そこで、1日連続で動作させていた。
まるまる1日ほど経った頃、何か臭い。プラスチックの焦げたような臭いが充満しはじめた。(自宅の中で実験していた)
原因を探ると、バッテリの上に置いたパルサー基板の裏面にはんだ付していたMosFETが発熱して、バッテリの上面のプラスチックの一部を溶かしていた。慌てて停止させたが、危うく火事を起こすところだった。
その後、回路を確認してみたが、発熱はしていたものの、FET自体は壊れていない。28Aも流せる大きめの石を使っていたからでもあろう。発生した熱は、バッテリのケースが放熱させていたものと思われ、何とか熱破壊には至らなかったものと考えられた。パルス発生には、555というタイマーチップを利用していたが、これも、破壊はしておらず、動作はしていたようだ。
解析の結果、以下の現象が起こったと予測した。
1.電源を入れると、14VのDC電圧と、10kHzの50Vパルスを正常に発生させはじめた
2.へたっているバッテリはパルスによる電気ショックで電極表面の酸化鉛が剥落させつつ充電が行われる
3.電力が綺麗になるに従い、吸い込む電流が徐々に増えていく
4.充電を続ける事で、バッテリが電流を吸い込まなくなってくる
5.パルサーから供給される電流が徐々に余るようになってくる
6.コイルに蓄積された電流が10kHzのサイクルで全て排出されなくなり直流電流が流れはじめる
7.直流電流がある値を超えた瞬間にインダクタンスが急激に減少して、蓄積された電流が一気に放出される
8.直流電流は流れ続け、インダクタンスが減少した状況のまま、スイッチONの時に供給される電流がスルーで出力されるようになる
9.パルス幅はたかだか数μsだが、その間は14VとGNDがショートした状態となり、貫通電流が流れる状態となる
10.スイッチ素子が発熱し、周辺の接触物を溶かすにいたり、異臭を発する。
と。
いやはや、危ない危ない。こんなことが起こらぬよう、直流重畳特性は、きちんと確かめなくてはならないと心に誓ったのでありました。
というところで、今日のところはここまで。次回は、具体的に、コイルの中の電流の変化を解析しようと思います。